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「心映画家 吉田瀬七」について語ること
吉田瀬七には吉田瀬七の世界があるように、他人には他人の世界があるのだということを、彼女は成人を超えて幾年かして、漸く、理解しようと努力を始めた。理解するには、まだ遠い。
見上げれば空があった。踏みしめて大地に気が付いた。空気を吸って、流れる血潮を感じた。世界がそこに居れと言ったから居った。時が歩めというから歩んだ。振り返れば過去が睨んできた。くすむ未来は、よく見えない。しかし、自分は絵を描いている。
絵で何を訴えるのか、伝えようとしているのか、何の為の絵なのか。吉田瀬七には、未だにその答えを描けない。描けたと思った上から、新しい絵の具で塗りつぶす。吉田瀬七の絵は、平坦でありながら、動こうとしている。四角く切り取られた紙の上で、大変窮屈そうにしている。吉田瀬七も、苦しかった。苦しかったが、吉田瀬七は、絵を描くことで生かされていた。
吉田瀬七は思う。自分が描こうとしているのは、命か、世界か、故郷か。
吉田瀬七は世界を見ている。世界、というと大げさかもしれない。自分が存在している、その場所を見ている。眼鏡のレンズを通して、目玉で見て、心で歪めて勝手な色をつけている。だから、心を映す、心映画家、と名乗っている。
自分の空が空と見られなかったときは、辛かった。自分の感想に共感してもらえなかったときは、悲しかった。言葉を重ねても、自分の心の全てを伝えることは出来ないのだと気が付いたときは、暗くなった。しかし、吉田瀬七が吉田瀬七の世界を伝えられないように、吉田瀬七だって、他の世界を理解することは出来ない。吉田瀬七の目玉を通して、他人の見ている空の色を知ることは出来ない。それを知るのに、随分と長くかかってしまった。
けれど、吉田瀬七は伝えようとせずにはいられない。吉田瀬七の生きる、この世界を。
吉田瀬七の視つめる、色を見て欲しい。吉田瀬七が、美しいと思った世界を見て欲しい。こういう世界もあるのだと、ほんの少しだけでも理解して欲しい。孤独だと思うことは、惨めだから。
いつか忘れてしまうだろう心を、忘れてしまわないようにと、祈るように、吉田瀬七は描いている。
いつか、あなたの目を通して視た、私の世界の感想を聞きたいと、吉田瀬七は思っている。
経歴
2018
第81回河北美術展 入選
2019
第82回河北美術展 入選
2021
中本誠司現代美術館
吉田瀬七個展「追憶」
第105回二科展 新人奨励賞受賞
第58回宮城県芸術祭 奨励賞受賞
銀座中央ギャラリー公募展入選入賞者展参加
2022
第106回二科展 入選
第83河北美術展 入選
2023
第84回河北美術展 入選
第107回二科展 入選
第18回月のアート展 入選
2024
第85回河北美術展 入選
晩翠画廊個展「映」
中本誠司現代美術館
吉田瀬七個展「視つめる」