吉田瀬七によるアート作品
向かう先
ありがとう。
君が教えてくれた僕の美しさを、ずっと大切にする。
◇◇◇
君が教えてくれなければ、僕は僕に気づくことができなかった。
ありがとう。
大切なことは、君が全て教えてくれたね。
ありがとう。
僕の美しさに気づかせてくれた、君の美しさを、僕は少しでも、君に伝えられたかな。
地獄は心と同じ場所にある
ずっと探していた場所は、生まれたところから動かずに、私を待っていた。
「こんなところにあったのだ」
と、種を蒔いた。
◇◇◇
ある人の旅の終わり。
そして、あるモノの命の始まり。
向日葵を追って
ごめんね、僕は君の望んだ大人にはなれなかった。
けれど、君が一番好きなことは、大切にしてきたつもりだ。
ありがとう、君が繋いでくれた命が、僕をここまで連れてきた。
きっと僕の想いも、誰かが未来に運んでくれるんだ。
ありがとう、本当に。
◇◇◇
アクリル絵の具、A4、ケント紙、ペン
「寂しくないの」と風が問う
「寂しくないよ」と彼女は笑った。
「今日は帰って来ないだけ。きっと、明日は帰って来る。あの人に話す思い出が、一日分増えた」
百年前と同じことを言って、彼女は笑う。
その笑顔が、本当に幸せそうだったから、彼女の代わりに泣くこともできない。
◇◇◇
アクリル絵の具、ケント紙、ペン、A4
手紙
今日の夕暮れはとても綺麗です。
鳥の番が仲良く飛んでいるのが見えます。
あなたが私の名前を呼んでくれた、その声が、徐々に記憶から薄れていきます。
それはほんの少し寂しいことだけれど、悲しいことではありません。
今日の思い出にさようなら。また明日。
◇◇◇
F10パネル、ケント紙、アクリル絵の具、ペン
「君」を聴かせて
「君」が美しいと思った景色を、
「君」が行きたかった場所を、
「君」が歌った歌を、
「君」が抱いた世界の感想を、
「君」が話したいことを……
◇◇◇
アクリル絵の具、ペン A4画用紙
森を出て
その人は森を出た。
美しい色を見た。美しい音を聴いた。美しいものに触れた。
広い世界に驚いて、自分がその世界にいることが嬉しかった。
これが幸せなのだと信じて喜んだ。
それなのに、
二度と戻らぬと誓った森を振り返って、
捨てたと思った暗い森を振り返って、
その人は今も、
「懐かしい」と思うのだ。
◇◇◇
アクリル絵の具、ケント紙、ペン、サムホール
以前描いた葉書サイズの作品をリメイク。
全ては投げ入れた小石から
海を眺めているだけでは、
物語は始まらないと気づいたから、
足元の小石を拾って、
その形も色もよく確かめず、
大きく腕を振るって海に向かって投げ入れた。
◇◇◇
アクリル絵の具、サムホール、パネル、ケント紙、ペン
時は留まることなく流れていく
過去は霞んでいて重い。
未来は鮮やかで軽い。
今は……
今は指の隙間から溢れていくものを留めようと必死である。
少しでも長く、少しでも多くのものを。
忘れたくないと、思ったものを。